共同声明
「自己責任」論による非政府組織(NGO)、市民団体、ジャーナリ スト等の活動への批判に憂慮します

わたしたちは、世界中の人々との草の根の交流、人びとの生活や人権などへの支援活動、ジャーナリストとしての活動などをおこなっている非政府組織(NGO)、市民団体やこれらに関わる個人です。わたしたちは、イラクにおける人質事件以降、政府および一部のマスメディアが今回の人質事件の原因を危険なイラクに出向いた被害者たちにあると批判し、事態の責任を「自己責任」の名のもとに、現地で活動しているNGOや個人に転嫁しようとしていることに大きな憤りと悲しみを感じています。(注)

このような「自己責任」論は、NGO等として紛争地域などで活動する人たちの人命が危険にさらされるような事態になったとしても、それは当事者の責任であると考えるあやまった世論をつくり出してしまいます。このような世論形成は、人命を軽視した安易な武力行使や実力行使を正当化させかねず、NGOなどによる海外での活動を大きく制約しかねないという危機感を大変強く持っています。

政府や一部マスメディアが主張する「自己責任」論は、自律した個人が自らの責任で社会活動をすることの意義を意味するという、その本来の意味をすりかえにしています。そして、人質の人たちとその家族を、そのようなまちがった「自己責任」論によって批判するようなことはすべきではないということを強く訴えたいと思います。

紛争地域などでのNGO活動には多かれ少なかれリスクは伴います。このことは、海外で活動する人びとにとっては十分理解されています。武器をもたずに、どこかの国家の組織に属することもなく、イラクの人びとの 安全や人権を守り、真実を伝えるために危険な地域におもむいた人びととその行動を「自己責任」論を持ち出して批判することはできません。 ところが、現在、政府や一部のマスメディアが批判のために持ち出している「自己責任」論は、紛争地域でのNGOやジャーナリストなどの活動を萎縮させて閉め出し、その独立性を失わせ、ますます地域の不安定を助長することになりかねないのです。

はたして自衛隊や日本の政府がNGOにかわって劣化ウラン弾の被害の調査を行ったり、貧しい子どもたちを支援するといった活動を行ってきたでしょうか。また、政治的な理由に左右されることのない人道支援を行えるでしょうか。戦争の被害を当事国の利害や国益にとらわれずに正確に把握することが果たして戦争の当事国にできるものなのでしょうか。国連のガイドラインでも、人道および軍事活動間の明確な区別を維持するために、軍事組織は直接的な人道支援をすべきではないという基準を設けており、紛争地域で中立な立場で人道支援できるのはNGOだということが確認されています。これに反して、「自己責任」論は、人道支援の軍事化を促し、人びとの安全をますます損なう結果となることに強い危惧を持つものです。

NGO や市民団体は、政府や軍隊には出来ない多くの分野で支援の実績を達成してきました。この事実は正当に評価されるべきことであっても、「自己責任」の名において批判されるべきではありません。あるいは、戦時のマスメディアがどれほど戦争の真実を伝えてきたでしょうか。軍隊や政府の庇護を受けないフリーのジャーナリストの報道は不要だといえるでしょうか。検閲や自主規制にとらわれないフリーのジャーナリストが戦争の真実を伝えるために、報道の自由に果たした役割ははかり知れません。

私たちは、政府や一部マスメディアによる「自己責任」論に基づく人質とその家族の皆さんへの批判はいわれのないものであって間違いであり、これを撤回することを強く望むものです。そして、現在のイラクの状況から、人道支援の最大の障害は軍隊なのだということがあらためて明らかになっているということを強調したいと思います。日本政府が自衛隊をいち早く撤退させ、米国や連合国にも軍隊の撤退を働きかけかけることこそが、イラクの人びとの生活と生命の安全を保障し、NGOなどの援助活動、人権監視活動、ジャーナリストとしての活動の安全を確保するもっとも確実な方法なのです。(注)

「自己責任」論についての政府、報道機関の言及の一例

外務省の竹内行夫事務次官の発言「非政府組織(NGO)メンバーによるイラク国内での活動について「自己責任の原則を自覚して、自らの安全を自らで守るということを考えてもらいたい」
『日経』4月13日社説 「自己責任がイラクにおける基本的な行動原則である」
『読売』4月13日社説 「自己責任の自覚を欠いた、無謀かつ無責任な行動が、政府や関係機関などに、大きな無用の負担をかけている。深刻に反省すべき問題」====

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